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法エールVol.172

井上勉

2023年4月20日

所在不明株式問題①
判例紹介:一人暮らしの高齢者が居住不動産を低廉な価格で売り渡す契約を無効とした事例
コラム:「マイブーム」


法エール2023_4月号
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ご挨拶

先月、袴田事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審を認めた東京高等裁判所の決定について、

検察は最高裁判所に特別抗告しないことを明らかにしました。

袴田事件とは、1966年6月、静岡市の味噌製造会社の専務宅が全焼し、焼け跡から、専務

とその家族計4人が刃物で刺された死体が発見されたという事件です。

袴田氏は、その味噌製造工場の従業員で、警察は当初から袴田氏が犯人であるとの認識の下で

捜査を進め、袴田氏を逮捕しました。そして、警察や検察の取り調べにより、勾留期間の満了する直前に自白しましたが、公判において否認しました。

自白調書は45通にも及び、自白の内容も日替わりで変更していきました。袴田氏の犯行時に

来ていた犯行着衣についても、検察は袴田氏の自白によりパジャマと主張していましたが、そのパジャマに被害者の血痕がついていたかが怪しくなり、事件から1年2カ月後に別の着衣が工場の味噌樽から発見されたとして、自白したパジャマとは異なる着衣を犯行着衣として主張を変更する事態となりました。

裁判での検察の主張は、ちぐはぐしたものでありましたが、第1審の静岡地裁は、自白調書の

うち44通を無効としながら、1通の検察官調書のみを採用し、犯行着衣についても袴田氏のも

のであると判断して、有罪としました。この判決は、1980年11月、最高裁が上告棄却し、

袴田氏の死刑が確定しました。

その後、袴田氏は、再審請求を行い、1度目は棄却されたものの、2度目の再審請求で、静岡

地裁は再審を開始し、袴田氏は釈放されました。しかし、検察側が即時抗告し、東京高裁は再審開始決定を取り消し、弁護側が特別抗告しました。これに対し、最高裁は、高裁決定を取り消し、差し戻しました。そして、先月東京高裁は静岡地裁の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をしました。この高裁の決定では、1年以上あとに味噌樽から見つかった衣類について、捜査員のねつ造の疑いもあると厳しく批判しました。

この決定を受けて、弁護団が記者会見を行いましたが、その弁護士の一人の方が、泣きながら

支援者の方々に感謝の言葉を述べていたのが印象的でした。

これまで、死刑が確定した事件で再審が開かれるのは5件目で、過去4件はいずれも無罪が言

い渡されています。事件から57年経ちました。早く袴田氏が無罪となることを祈るばかりです。

それでは、今月の法エールよろしくお願い致します。

(代表社員井上勉)


 

~所在不明株式問題①~


株式会社の株主が行方不明となり、株主総会の運営に支障を生じる場合があります。例えば、

当初の株主が死亡し、その相続人が複数で、またその中の相続人も死亡し、さらにその相続人

の一部が海外に出国して以降、住所が不明になっているなどして、株主の所在が分からなくなってします場合があります。

そのような場合、株主の所在が不明となっている株式の議決権の割合が高くなければ、会社

の経営に大きな影響を及ぼす可能性が高くないとして、そのままにしておくという会社もあり

ますが、株主の所在が不明である株式の問題を解消したいと考える会社もあります。

今回は、この所在不明株式の解消の仕方についてご説明します。

所在不明株式を解決する方法として、今回より4つの手続きをご紹介します。

1.所在不明株式の株式売却制度

会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合、会社は、その株

主に対してする通知又は催告をすることを要しないとされています。このように会社の通知お

よび催告を省略できる株主で、かつ継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった(無配を含

む)場合、その株式を競売等により換価処理することができます。

上記要件を満たす場合、裁判所の手続きを経て株式を競売により売却することができますが、

中小企業等で市場価格のない株式については、裁判所の許可を得ることで、任意売却や自己株

式として取得することができます。裁判所に申立する際には、5年以上継続して通知又は催告

が到達していないことの証明として、毎年通知等を送付し、「あて所にたずねあたらず」で戻ってきた封書を提出する必要があります。具体的には、令和5年5月開催の定時株主総会に招集通知が到達しなかった場合、その後、令和10年5月開催の定時株主総会の招集通知まで、連

続して6回の招集通知が到達しなかったことを確認して初めて、当該株主に対する通知・催告

の省略が認められます。したがって、会社としては、その間通知等を送り続ける必要がありま

すので、時間が係ることになります。

また、この手続きを裁判所に申立する場合、官報等に公告し、かつ、所在不明株主や登録質

権者(株式に質権を設定した者)等の利害関係人に個別催告を行う必要があります。さらに取

締役会の決議も必要となり、売却価格が決まれば、裁判所の許可がおり、会社又は第三者が強

制的に所在不明株式を買い取ることができます。なお、競売又は売却された株式の代金は供託

することが認められています。

今回は、解決方法の1つ目をご説明しました。次回は、解決方法の2つ目からご説明します。



 
判例紹介

一人暮らしの高齢者が居住不動産を低廉な価格で売り渡す

契約を無効とした事例(東京地方裁判所平成30年5月25日判決)


≪ 事案の概要≫

X ( 当時9 2 歳女性) は、2 0 1 6 年1 1 月中旬、所有していた土地と建物( 以下、本件不動産) を7 0 0 万円でY ( 宅地建物取業者ではない男性2 5 歳) に売却する売買契約を締結し、同日、Yから700万円を受け取り、XからYへの所有権移転登記が行われた。

X とY は、本件不動産の明渡しを2 0 1 7 年1 月下旬まで猶予し、明渡しまでX がY に月額15万円の賃料相当額を支払う旨が記載された「合意書」を作成した。Xは、Yに対し、

「合意書」に基づく賃料として、同年1 1 月下旬に6 万円を、同年1 2 月上旬に7 万5 0

0 0円を支払った。

その後、X は上記所有権移転登記の抹消登記を請求するため、弁護士に依頼し、東京地

方裁判所に、Y を債務者とする本件不動産についての処分禁止の仮処分を申し立て、2 0

16年12月中旬、仮処分の決定がされた。Yは、本件売買締結後、Xに電話を架けたり、

X の居住する本件不動産を訪問したりして、明渡しを求めた。

X は、X が本件売買契約を締結することにより被る不利益を十分に理解していないこと

に乗じて、著しく低廉な価格で本件不動産を売却させるものであるから、本件売買は公序良俗に反し、または錯誤により無効(2017年改正民法の施行前の事件)、あるいは詐欺により

取り消すとして、本件不動産の所有権に基づき、Yへの所有権移転登記の抹消登記手続を求めるとともに、Yの行為に不法行為が成立するとして、慰謝料200万円および弁護士費用相当額200万円の損害賠償の支払を求め、さらに、不当利得返還請求権に基づき、本件不動産の賃料としてYに支払った13万5000円の返還を求めた。

なお、本件不動産の2016年度の固定資産税評価額は、土地が約4900万円、建物が約10

0万円の合計約5000万円強であり、大手不動産業者2社による査定では、本件不動産の評価額は約1億1500万円または約1億2800万円とされている。


≪裁判所の判断≫

1. 本件売買の公序良俗違反の有無

仮に、Yが主張している本件建物の解体に相当程度の費用がかかるとしても、その費用は150

万円から300万円程度であると認められる。そうすると、売買価格700万円は、固定資産税評価額の14%にも満たず、大手不動産業者の査定価格の5~6%程度に過ぎないことから、著しく低額であって、当該価格に合理性を見出すことは到底困難である。

本件売買はXに利益があると考えらず、Xが本件売買を行う動機がまったく見当たらないことも考慮すると、Xは、本件売買を締結したことにより被る不利益を十分に理解しておらず、Yも、少なくとも、Xが本件売買について十分に理解しているかどうかを確認することなく漫然と本件売買を締結したものと認めるのが相当である。

以上によれば、Yは、Xに十分な説明を行わないまま不合理な内容の契約を締結させ、暴利を得ようとしたものというほかはない。したがって、本件売買は、公序良俗に反し無効である。

2.YのXに対する不法行為の成否

本件売買が公序良俗に反し無効であることは前記認定のとおりであるところ、かかる契約をXに締結させたYの行為は、Xの本件不動産という財産権を違法に侵害する不法行為に該当するものと認められ、弁護士費用相当額の損害を被ったものと認められるところ、本件の弁護士費用相当額としては、100万円がYの不法行為と相当因果関係にある損害であると認められる。(慰謝料は認められなかった。)

3.13万5000円の支払の法律上の原因の有無

本件賃貸借契約は本件売買に付随して締結されたものであるといえ、本件売買が公序良俗違反で無効である以上、本件賃貸借契約も当然に無効である。したがって、Xは、Yに対し、支払済み金員の返還を求めることができる。

≪コメント≫

今回のように、高齢者は判断力の低下に乗じた消費者被害は後を絶ちません。高齢者の消費者被害は、今後も、高齢化が進むにつれて、更に増加していくことが懸念されます。

このような高齢者が消費者としてトラブルに巻き込まれないように、消費者契約法第4条第3項5号において、加齢等により判断力が著しく低下していることに乗じてその不安をあおり、契約を締結させた場合にはその契約を取消すことができる規定のほか、消費者庁においては「高齢者障がい者の見守りガイドブック」を公開し、その注意喚起のための啓発活動を行ったりなど、高齢者等を保護するための制度が活動がなされています。しかし、一人暮らしの高齢者の場合は、相談する相手も少なく、被害を抱え込む場合も少なくありません。法律や制度があることはもちろん大事ですが、高齢者等に対する周囲や地域の見守りが被害の予防にも繋がることになります。そこで先ずは、身近な方との関りを構築していけるよう、一人ひとりの意識を変えていきたいものです。



 

コラム

「マイブーム」


最近のマイブームは、カップラーメンです。小腹が空いた時などに重宝しています。週3

回は食べています! コンビニに寄った際には、新作が出ていないかいつも確認していま

す。具が入っていないのに、なかなかの値段がするもの。2回お湯を入れるもの。ご当地

もの。毎日食べても、飽きません。

学生時代は、ラーメンガイドブックを片手に、友達とラーメン屋さんを巡るのが趣味でし

た。そんなラーメン好きの私のおすすめは、5 5秒で出来上がるカップラーメン! !

私は、カタ麺が好きなので、4 0秒ほどで食べ始めます。

うまい。今日も買って帰ろう。。

清水事務所 福島直也


 

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